三重テレビ『ゲンキみえ生き活きレポート』2022年7月3日

御浜町市木地区で織られる木綿「市木木綿」を未来に紡いでいこうと活動するのが「市木木綿を未来へ紡ぐ会」のみなさん!
市木木綿は、明治時代に市木地区でその生産が始まり、県の伝統工芸品にも指定され使い込むほどに肌になじむ風合いが好評で最盛期には45軒の織元があったと言われています!
しかし、現在は、熊野市でふとん店を営む向井さんが唯一の織元に・・・
これまでの織り工場から、市木地区内に新しい工場を開設するにあたり、改修工事費用などを「市木木綿を未来へ紡ぐ会」がクラウドファンディングで募集を行っています。

三重県南牟婁郡御浜町。
海沿いの国道42号線から少し入ったところにある市木地区。
この地域で明治時代に編み出され、今も紡ぎ続けられているのが、『市木木綿(いちぎもめん)』です。

 

御浜町に詳しい、『一般社団法人ツーリズムみはま』の辻本安芸さんにお話をうかがいました。

 

「御浜町の市木地区には『市木木綿』という県指定の伝統工芸品があります。
とても触り心地が柔らかい織物です。
ここは海が近いということもあり塩害がひどい地域だったそうなんですね。
ですから、明治時代に副業として『市木木綿』というブランドを作って、みんなでこの町を盛り上げていこうと、この地域ではじまった産業になります。

しかし現在、市木木綿を織っている織元さんはただ一人になり、その織り工場自体を移転しなければいけないという話も持ち上がっています。
地域の人をはじめ、地域外の方に向けても市木木綿を知ってもらう機会にしようということで、クラウドファンディングを始めています」

 

御浜町のお隣、熊野市木本町にある『向井ふとん店』に来ました。
こちらでは『市木木綿』を使った製品を販売しています。
『市木木綿を未来へ紡ぐ会』の代表・『向井ふとん店』の向井浩高さんは、『市木木綿』の伝統を守る、ただ一人の織元さんです。

 

 

「『市木木綿』は御浜町の市木という地区で昔から織られている木綿なんですけど、カラフルな縦縞の柄が特徴になります」

 

そしてもうひとつの特徴がこの糸。
市木木綿は2本の糸をより合わせた双糸(そうし)を使わず、1本のままの単糸(たんし)を使います。
織る時は切れやすく繊細ですが、表情のある生地ができるといいます。

 

熊野で昔から使われているこの道具。

「『いただき』と呼ばれていて、頭の上に乗せて、例えば魚の入った桶とかそういうものをこう持って運ぶ道具になるんです。
市木木綿自体が表面と裏面両面使えるんです。
昔の方はすごく物を大事にされたので、表面が古くなったら裏返してまた使って、最後はこの『いただき』や、草履の鼻緒などにして、最後まで無駄なく使われたんですね。
そういう例を示す意味で、お店に置いています」

 

布団職人である向井さんが、布団の生地として取り扱いをはじめた市木木綿。
その後、向井さんがさらに市木木綿に向き合うきっかけがありました。
それがこちら。
ある家に残されていた100年前の市木木綿です。

「『布団を打ち直すんやけども、これは古い市木木綿で、ここの家のおばあちゃんが嫁に来た時に持ってきた市木木綿やから表の生地は大事に取っておくんだ』と言ったんです。
今は大量生産で何でも使い捨ての時代です。
古いものは捨ててしまいがちですが、100年前のものでも思い入れと一緒に残しておく市木木綿ってすごいな思いました。
僕もそういう思い出と一緒に残していけるものを作っていけたらと思って、これがそのきっかけになった市木木綿です」

 

ふとん店の経営の傍ら、向井さんは、市木地区にたった1軒残っていた市木木綿の織元に弟子入り。
その技術を受け継ぎました。
それから16年。
今では、向井さんが市木木綿を織る唯一の織元です。
博物館の方に調べてもらったところ、使っている機械は100年ほど前のもの。

 

「この生地とかでも全部縦糸一緒なんですよね。
だけど横糸を茶色にすると、こういう色になったり、横糸を赤にすると、こういう色。
横糸をグリーンにすると、こういう風に縦糸と横糸の組み合わせで柄の表情が変わります」

 

「こちらの建物は、僕が今まで先代の大畑さんから貸していただいてた市木木綿の織り工場になります。
ここを使えなくなるということで、引っ越し先をいろいろ考えました。
しかし、『市木木綿』自体がやっぱり昔は市木でやって続いてきたものなので、絶対市木で残したいと思いました。
歩いて2,3分の所に移転先を見つけ、移転をちょっとずつ始めているところです」

 

というわけで現在、クラウドファンディングで、新たな織工場の土地建物の購入費用、内外装の改修工事費、展示スペースの費用を募集中。
返礼品は、市木木綿の製品や新工場の見学ツアーなどを用意。
すでに目標金額を大幅に上回る金額を達成。
市木木綿に対する期待、そしてふるさとの伝統工芸を守りたいという地域のみなさんの思いが寄せられています。

 

続いてやってきたのは、移転先である新工場です。
1階には機織り機が置かれ、市木木綿を使った製品も展示予定。
2階はワークショップなども開催できるスペースにして、市木木綿の拠点にしようと考えています。

 

市木木綿を未来につむぐ新工場。
そこに、先程市木地区を案内していただいた辻本さんと、御浜町在住の石垣浩子さんがやってきました。
ふたりとも『市木木綿を未来へ紡ぐ会』のメンバーです。
『市木木綿を未来へ紡ぐ会』は今回の工場の移転をきっかけに発足し、現在15名と1社が参加しています。

「あと20年経った時に、次の後継者も決めないとといけません。
いろいろ相談に乗ってもらって、次の後継者のことなども考えていていたいただいたりとか、市木木綿を次の世代に繋いでいくために協力してもらえる方を、募り、集まってもらいました」

と、向井さん。

「御浜の大切な伝統文化を向井さんが必死に繋げようとしてくれていて、場所探しでとても苦労されていると聞きました。
向井さんが熊野の方であるなら、御浜町の人間として私たちがお手伝いしないといけないと思い、みなさんい知ってもらうという意味も込めて、クラウドファンディングを提案しました。
今はその企画や運用などのお手伝いをしています」

とマーケティングマネージャーの辻本さん。

 

そしてもうひとりの石垣さんは、市木木綿のウエディングドレスで結婚した御浜町生まれ、御浜町育ちの女性です。

 

「最初はやっぱり市木木綿のカラフルなのもいいなと思いましたが、白が実現できたということもあり、白にしました。
海のある町なので、後ろが貝のボタンになっているところも気に入っています」

地域への思いをウエディングドレスに込めて・・・
歴史と伝統を折り込み、未来へとつないでいく・・・
この先、後継者が見つかったら、この技術だけでなく、織り機も建物も、何もかもすべて無償で渡すつもりだと向井さんは言い切ります。

「市木木綿を織るというだけではなくて、ここを拠点にして、全国から御浜町を目指して、ここへ来ていろんな体験をしてもらいたいです。
全国から来てもらえるというという場所になったら一番嬉しいですね」

と、向井さん。

市木木綿を未来へつむぐ会のクラウドファンディングは7月20日まで受付中!
興味のある方は、『向井ふとん店』のウェブサイトへ!